世界の中心で愛を叫ばない小説
題名からして、どんなドラマチックな恋愛話が
繰り広げられるのか、完全に、泣く用意をして
物語に挑みました。
大学のキャンパスで出会う一組の男女。
二人は「もみじ饅頭」をきっかけに付き合い
始めます。
「会いたい、いつも一緒にいたい。授業かあ。まあ、いいか・・・」
時間のある学生が恋愛にはまっていくのは当然のこと。
三角関係?
将来への不安?
恋人の死?
そんなキーワードを探しながら、また、頭に思い浮かべながら、
何らかの「事件」が起こることを期待して読み進めていきました。
「このままじゃだめになる。電話するのは週三回、決まった時間に。
会うのも週一回だけにしよう」
私が大学生だった頃の現実の世界では、到底無理だった約束事を、
この物語の男女は、やすやすとやってのけます。
奪ったり、奪われたり、
裏切ったり、裏切られたり、
傷ついたり、傷つけられたり・・・。
そんな青春の代名詞のようなエピソードは、一向に登場してきません。
主人公の女の子は言います。
(引用)
「恋はスタンプカードのようなものだ、と私は思う。
キスをして、好きだと思って、何かを分かり合って、優しい気持になってー。
そんなことがある度に、私たちはスタンプを押す。一人で押すこともあるし、
二人で押すこともある。スタンプがすべて集まったら、次のカードをもらいに
いこう。
いつまで続くのかな?密やかな気分で私は思う。このカードはいつか、
かけがえのない何かと交換できる。そんな日がきっと来る。」
(引用終わり)
運任せの、宝くじやロトではなく、コツコツとためていけば、必ず、なにか、
(それはささやかなものだけれど)が返ってくるー。
愛をはぐくむことを、スタンプカードを集めることに例えたのは、この小説の
すべてを表していると思います。
つまり、だれでも一度は経験したことのある、身近なエピソードや気持ちを
思い出させてくれるのです。
世界の「片隅」で、愛を「そっとささやく」ような小説です。
書評、レビュー