滴り落ちた物語たちの波紋が止まらない小説。
九つの短編で構成されています。
その中でも、特に印象的だったのは、「珍事」。
ある男が、出張先のあるホテルで、向かいの
ビルから手を振ってくる、見知らぬ男を見つける。
あー、なんてバカな奴なんだ、暇人なんだ。
こんなつまらないことをして、一生、楽しみのない
平凡な人生を送っていくんだな、とその男のことを
哀れに思う。
この話を聞いた同僚の言葉。
「まァ、それは、ちょっとした珍事だったな」
この一言で、5,6ページの短い物語は締めくくられます。
なんていうことない小話、まさに「ちょっとした」話なんですが、
奇妙な可笑しみが、ずっと後に尾を引くような感覚です。